信頼関係を構築するというのは言葉ではたったの2文字ですが、いざ実践するとなると難しいですよね。
こうすれば上手くいくという理論通りにはならないものばかりです。
頭では分かっているものの、相手が求めていないお節介をしてしまったり、余計な一言で口げんかになってしまったりしてしまいます。
僕たちは信頼関係を構築する上で必ず知っておかなければならないこと、それは相手の気持ちを自分ごとのように感じるということです。
相手の気持ちを自分ごとのように感じるというのは、簡単そうで非常に難しいことです。なぜなら自分と他人は全く同じ経験・体験をしてきていないからです。
だからこそ、相手のことを意識して深く理解していく必要があるとも言えます。
世の中には信頼構築するための表面的なスキルが出回っていますが、本質を理解しないままスキルを使っても逆効果になることばかりです。
そこで、今回は信頼関係を築く上での心の仕組みと、具体的な信頼関係を構築するための実践方法についてお伝えしていきます。
それでは始めていきましょう!
目次
信頼関係の意味とは
そもそも信頼関係が大切であるとは言うものの、この実態が分からなければ信頼関係を構築するというのは無理な話です。
「嫌われる勇気」のアドラー心理学では、信頼の意味を次のように定義しています。
他者を信じるにあたって、一切の条件を付けないこと。
なお、信頼と比較されるものの中に「信用」という言葉がありますが、こちらは信頼とは意味が大きく異なります。
信用は無条件ではなく、条件付きです。
例えば、銀行からの融資やクレジットカードの枠というのは「あなたにはこれだけの信用があります」という担保があった上で成立しています。
信頼というのは無条件で相手を信じるということですので、信頼関係を構築するというのは無条件でお互いを信じている状態であると言えます。
僕らは常に利害関係のある社会で生きているので、相手の態度によってこちらも変えてしまうことってあります。これは「信頼」ではなく「信用」の考え方です。
では、信頼関係を築くために、次は人の心の仕組みを見ていきましょう。
意識と無意識
人には意識(顕在意識)と無意識(潜在意識)が存在しているという話は聞いたことがあるかと思います。
無意識は言葉の通り「意識していない」「自分で気付けていない」部分です。
意識と無意識はコンピュータで例えるなら、
- 意識 = 性能の悪いコンピュータ
- 無意識 = 最新のスーパーコンピュータ
これぐらい大きな違いがあり、人の行動パターンの影響力は無意識が95%、意識が5%だと言われています。
ですので、意識よりも無意識の影響力が遥かに大きいということが分かります。人は意識で選択しているようで無意識に支配されていることが圧倒的に多いのです。
人間の中のプログラム
人間の中には、コンピュータのようなプログラムが組み込まれています。コンピュータというと少し難しく感じるかもしれませんが、毎回繰り返すパターンのことです。
パターンの例
- 朝晩の歯磨き
- いつも決まった道を通る
- 大好きなテレビ番組を視聴する
- 同じ人とばかり会話する
コンピュータのプログラムというと「入力」があって「出力」が決まっています。
例えば、パソコンのキーボードで「おはようございます」と入力すれば、画面にも「おはようございます」と出力されるようになります。
人も同じように特定の入力に対して、特定の出力をするようなプログラムを無意識的に取っているのです。これを一般的には習慣化と呼んでいます。
プログラム化される過程
人のプログラムは体験か言葉によって作られていきます。
人のプログラムの場合、コンピュータの入力にあたる部分が「刺激」で、出力に当たる部分が「反応」です。
- 幼少期に犬に噛まれてしまって犬恐怖症になる
- 女性に酷いことを言われて女性恐怖症になる
どちらも体験か言葉による刺激で起こっている現象であることが分かります。
幼少期に犬に噛まれて犬恐怖症になったら、犬を見かける度に逃げ出したくなる反応を取り、女性に酷いことを言われて女性恐怖症になったら、女性と会話することを避けるような行動を取るでしょう。
そして、このプログラムによって偏見が生まれやすくなります。
プログラムの例
- お金持ちは性格が悪い
- お金は汗水垂らして稼ぐもの
- 誰かに迷惑を掛けたらいけない
- 会社はスーツで出勤するもの
- 名刺は必ず渡すもの
- 男性が女性にご馳走するもの
- 時間を守らない人間は仕事ができない
などなど、これらは全て生まれつきのものではなく、後天的に体験や言葉によって無意識的に作られたものです。
意識と無意識の特徴
プログラムが作られると自動的に無意識が反応するようになります。
あなたが犬恐怖症であった場合、あなたの信頼している友人が小さな子犬を「絶対に安全だから大丈夫」と言われても安心できないと思います。
信頼している友人の言葉を頭(意識)では理解できていても、身体(無意識)では別の反応をしてしまうからです。
他にタバコをやめられない人も、頭ではタバコをやめた方がいいと分かっていても、猛烈にタバコを吸いたいと感じたら吸ってしまいます。
つまり、意識と無意識の特徴は以下のことが言えます。
- 意識 = 思考 = 言葉
- 無意識 = 身体 = 感覚(五感)
※五感とは「視覚」「聴覚」「身体感覚」「嗅覚」「味覚」のことです。
僕たちは何かを考えるときに思考を使って考えます。また、思考は言葉を使って考えますよね。
一方で無意識というのは言葉ではなく感覚で自動的に行われるのです。
安心・安全の確保
無意識にプログラムが作られるには理由があります。それは自分を危険から守る強い本能が働くためです。
人には安心・安全という欲求があり、1日でも長く生きたいと無意識で思っています。
例えば、成功したいと思って自己啓発本などを読んでも行動に起こせないのは、成功することを恐れるプログラムが働いているからです。
それぐらい安心・安全の欲求というのは存在の大きいものだと思ってください。
この安心・安全の感覚さえお互いに得るできれば、信頼関係の構築が可能となります。
安心・安全の判断基準
安心・安全を相手に感じてもらうためには「安心・安全である」ことと「危険である」ことの違いを理解する必要があります。
メモ
人は分からない状態を危険であると感じ、分かると安心する生き物である
自宅であったり通い慣れた道であったり、両親や親友などとの会話はリラックスすることができると思いますが、初めての取引先や行ったことのない地域だと少なからず緊張します。
なぜなら、自分でリスクコントロールすることができない状況や環境が怖いからです。普段から慣れているものであれば、分かっているので恐れるものがなくなります。
当然、赤の他人同士であればお互いに分からないことだらけですので「危険」な存在なわけです。
信頼関係を築くためには、まず安心・安全という土台をしっかり整えるようにしていきましょう。
信頼関係の構築で相手に心を開いてもらう方法
相手に心を開いてもらうためにはどうすれば良いかというと、あなたから心を開くという姿勢を見せることです。しかしながら、こちらから心を開くというのは簡単ではありません。
意識レベルで「心を開こう!」と願っていたとしても、あなたの無意識レベルで「この人は危険かもしれない」と思っていたら、ほんの些細なことでも相手の感覚に伝わります。
会議室での議論や友達とのケンカで、場の空気がピリピリしていたという経験はないでしょうか?これがまさに感覚で感じるというものです。
視線、表情、声の大きさ、姿勢、呼吸、など、無意識のありのままが外面に出てきます。
無意識レベルで「この人は危険かもしれない」というプログラムが発動しないようにするためには、コーチングなどを専門家から受けることが理想ですが、すぐにでも実践できる簡単な方法を1つご紹介します。
それは「この人の素敵なところ・好ましい部分はどんなところだろう?」と焦点をズラしてみてください。
こうすることで無意識に危険だと感じている部分の焦点が変わり、防衛するプログラムが発動しないように緩和されます。
少し難易度は高くなりますが、信頼関係を構築するための実践方法を2つお伝えします。具体的には次の通りです。
- 自己開示
- ペーシング
信頼関係を築く「自己開示」とは
自己開示とは、自分のプライベートな情報を、相手にありのまま伝えることを言います。
相手に自己開示をすることで、相手から信頼を得られると同時に、相手からも高い確率でプライベートな情報を開示してもらうことができます。
プライベートな情報というのは様々ですが、好ましい部分だけではなく、可能な限り他人には言いたくない気掛かりな部分を伝えることをオススメします。
気掛かりな部分というのは、過去のトラウマ、コンプレックス、失敗談などのことです。
安心・安全な状態を創り出すためには、お互いに気掛かりな部分を開示して認め合うことが必要不可欠です。
自分の中で気掛かりな部分を開示しないまま伏せてしまうと、相手も鏡のように開示しないようになってしまいます。
そうなるとお互いに隠し事がある状態で関わることとなり、安心・安全な状態を創り出すことができなくなるのです。
少し勇気が必要となりますが、大概のことは相手も受け入れてくれますので、ぜひ自分から自己開示をしてみてください。
信頼構築の方法【ペーシングとは】
相手と信頼構築するための方法にペーシングというものがあります。「合わせる」や「同調する」という意味合いを持っています。
信頼構築のためには大切なのは相手から安心・安全であると感じてもらうことだと解説しましたが、そのためには相手の世界観を尊重することです。
もし、あなたが相手の世界観に否定的な態度を取ってしまったら、「あぁ、この人は自分のことを全然理解してくれない」と心を閉ざしてしまうでしょう。
そのためには、まず最初に相手の世界観をあなた自身が受け入れて、それを一切の色眼鏡(フィルター)を通さずに真っさらな状態で見ようとすることが大切です。どれだけ相手が独特な価値観があってもです。
「どのように会話を進めるのか?」「どういう質問をしたらいいのか?」というスキルよりも、どういう姿勢で相手の気持ちを理解しながら深く関わっていくかの方が重要です。
ペーシングの効果
ペーシングに成功するとお互いの世界観を共有することができ、深く安心・安全を感じることが可能となり、自分は相手から十分に理解してもらえていると感じられるようになります。
ペーシングというのは思考で理解させるものではなく、感覚(五感)に働かせるものなので効果が大きいのです。
理解には「知得」と「体得」の大きく分けて2種類があり、「知得」は頭で知っているだけの状態、「体得」は体験したことによる理解のことです。
過去にお茶を飲んだことない人がどれだけ辞書で調べたとしても、お茶の美味しさは分かりませんが、お茶を一口飲むだけでどんな味なのか理解できます。
どちらがより深い理解をできるかは一目瞭然ですよね。ペーシングでは「体得」による深い理解が得られます。
ペーシングの実践方法
相手の内面は無意識的に外面に表れています。例えば、緊張していると身体が前後左右に揺れたり、視線が泳いだりです。
ですので、相手の外面を注意深く意識していく必要があります。
相手にとって嬉しい出来事があったのなら嬉しそうな表情をしているでしょう。嫌な出来事があったら険しそうな表情をしているかもしれません。
これらの外面に出ている部分に、あなたを鏡のように合わせていくことがペーシングです。
ポイントは、相手と全く同じ動作をするのではなく、相手の外面に出ている部分が内面の何を意図しての行動なのかを推測して意図を合わせるということです。
就職面接で面接官が腕や足を組んでいるからといって、あなたも同じような姿勢を取ったら不合格になるでしょう。この場合は「緊張している雰囲気」を合わせて脇を締めるなどの動作をするとペーシングしたことになります。
相手と全く同じ動作をすると意識レベルで見抜かれて、最悪は関係が悪化しますので注意が必要です。
では、具体的に何を意識してペーシングしていくのかを3つご紹介しますので、参考にしてください。
ボディランゲージを合わせる
1つ目はボディランゲージです。相手が身振り手振りの大きい人だったら、こちらもリアクションを大きくするなどすると、信頼関係の構築がしやすくなります。
ボディーランゲージの種類
- 呼吸の深さ(浅いか深いか)
- 呼吸のスピード(早いか遅いか)
- 姿勢
- 表情
- 身振り手振り
- 視線
声の調子を合わせる
2つ目が「声の調子」です。相手が早口なら、なるべく早口に合わせましょう。
声の調子の種類
- 話すスピード
- 声の大きさ
- 声のトーン
- 話すリズム
バックトラッキング
3つ目はバックトラッキングです。バックトラッキングは、相手の話したことをそのままオウム返しするという技法です。
A「昨晩はどちらに行かれたんですか?」
B「友達と食事に行ってきました」
A「食事に行って来られたのですね」(バックトラッキング)
B「そうですね」
単純ですが、相手から「YES」をもらうことができます。「YES」は無意識に「受け入れる」という意味でもありますので信頼構築するために有効な方法です。
相手の話すペースが早い場合、バックトラッキングすると会話のリズムを崩してしまって、逆に信頼構築に失敗してしまう場合があります。その際には無理にバックトラッキングしなくてもOKです。
ペーシングを上達させるコツ
ペーシングを上達させるためには2つの能力を磨く必要があります。
- 相手の外面に出てくる微細な情報を感知できること
- 同時に2つ以上ペーシングできるようになること
そもそもペーシングするためには相手の外面に出てくる微細な情報に気付かないと出来ません。そのためには五感を研ぎ澄ませて意識することから始めていきましょう。
「呼吸」「姿勢」「表情」「声のトーン」など、正直こんなにも同時に意識するところがあって、難しいと感じた人もいるかと思います。
それもそのはずで、基本的に人は意識できることは1つだけだからです。話す内容に意識を向けていたら呼吸や声のトーンは意識では検知できなくなります。
これは反復練習によって、無意識で同時に複数のことへ焦点を合わせることが出来ます。
自動車のマニュアル運転だと分かりやすいかと思います。
自動車は発信する際に「左足でクラッチを踏む」「左腕でギアを変える」「右足でアクセルを踏む」「右手でハンドルを切る」「周囲が安全か確認する」ということを同時に行います。
教習所で最初に習った頃はぎこちなかったはずです。でも、何度も練習することで無意識で出来るようになります。
これと同じようにペーシングも何度も意識する練習をすることで確実に上達していきます。
最後に
信頼関係の構築というのは、一挙手一投足で行えるものではありません。常日頃から相手の価値観を受け入れながら尊重していく姿勢や在り方が必要です。
その上で自己開示やペーシングというスキルが活きていきます。
これが出来たら信頼関係の構築は完璧だというものなど存在しないので、今回のお伝えした内容を参考にしていただき何度も実践して体得していって欲しいと思います。